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ライフログの歴史に軽く触れてみる

最近ライフログについて関心があったので、知り得た情報をまとめてみました。といっても、最新情報の類ではなくむしろその逆なので、期待と異なる方は回れ右推奨です。

ライフログとは

ライフログとは、人間の生活を長期間に渡りデジタルデータとして記録すること、またその記録自体を指す。

ライフログ - Wikipedia


インターネット上のあらゆる情報の検索が容易になった今、人間が「知識として記憶しておく必要性」は薄らぎつつあると言えます。

ただし個人の行動に基づく情報、例えば3日前に誰と会ったか?といった情報はどうでしょうか。これが検索可能になれば、それは「人間の記憶をサポートするシステム」となり得ることが出来、その最たる例がライフログです。

実はライフログの発想は、今から70年以上も前にその原型となる概念が発表されていました。

Memex

パソコンやそのユーザーインターフェイスハイパーテキストの概念に大きな影響を与えた、Memexというものをご存知でしょうか。

Memex(メメックス、MEMory EXtender すなわち「記憶拡張機」の略)は、ヴァネヴァー・ブッシュが1945年の The Atlantic Monthly 誌の記事 "As We May Think" (AWMT) で発表したハイパーテキストの元となったシステムの概念である。

ブッシュが想像した memex は、個人が所有する全ての本、記録、通信内容などを圧縮して格納できるデバイスであり、「高速かつ柔軟に参照できるように機械化されている」ものである。 memex は「個人の記憶を拡張する個人的な補助記憶」を提供する。memex の概念は後のハイパーテキスト開発(さらには World Wide Web の創造)や個人用知識ベースソフトウェア開発に多大な影響を与えた。

Memex - Wikipedia

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<LIFE誌が掲載した "As We May Think" 要約版の中の Memex 予想図>


Wikipediaから更に引用すると

memex はブッシュによれば「一種の機械化された個人用ファイル兼ライブラリ」である。マイクロフィルム、乾板写真、アナログコンピュータを使い、索引付けした膨大な知識の保管所へのアクセスを可能にするもので、どんな知識でもほんの少しのキー押下で呼び出せるという

つまり、画像や動画やその他の「個人の知識」をコンピュータに保管し、必要な時に必要な知識を取り出せるような仕組みを想定しています。個人の体験が機器に残されることによって、検索対象の一部になる。つまり「人間の記憶を拡張できる」という構想でした。

これは「ライフログ」の原点とも言えます。

米MITS社が世界初のパーソナルコンピュータ「ALTAIR」を発売したのが1974年ですので、"As We May Think"が発表された1945年当時、Memexはまだまだ構想上のものでしかありませんでした。

しかし1990年代になると、実際に利用者の経験を記録したり、行動に基づいた情報検索を支援するようなシステムが研究されるようになります。

Forget me not

代表的な研究事例として、イギリスのゼロックス社によって開発された Forget-me-not というものがあります。

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これは携帯型の情報システムで、利用者が常に持ち歩いていることを前提としています。

オフィス内の各所に、赤外線ビーコンのような装置があり、これと連動してForget-me-notを携帯している利用者の位置を記憶することが出来ます。また、複数の利用者の位置情報を統合することで、どの会議室にいて誰が同席していたか、といったような情報も得ることが出来るようになっています。

www.youtube.com

画面の中にアイコンで表示されているのが個人の行動履歴です。

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位置情報以外にも、メールを受け取ったり、書類を出力したり、電話を受とったり、という行動が即時に記録されます。また「階段を登って会議室に入った」というような移動情報も蓄積されていきます。

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このような行動履歴を情報として残しておくことで、履歴の一覧の中から「特定の人と会ったものだけを取り出す」ことを可能にしています。

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例えばある会議室で交換した書類を、後からプリンターで出力するといったシーンです。人・場所・日時といった情報での絞込が可能なインターフェイスを備えています。

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このように、個人の行動履歴情報を記憶して、それに基づく情報アクセスを支援しているのがForget-me-notです。さすがはゼロックスなので、動画のあらゆるシーンで書類のプリントアウトというアクションに強結合しているのが、今となってはちょっと笑ってしまいます。

個人的にこのForget-me-not の試みは面白いと思い、もう少し詳しい情報を知りたかったのですが、残念ながら目ぼしい情報はこのYouTube動画とPDFくらいしかないようです。

“Forget-me-not” Intimate Computing in Support of Human Memory http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.1.6966&rep=rep1&type=pdf

その他のライフログの試み

ライフログの代表的な研究としては、Microsoftが2002年から行っていた「MyLifeBits Project」が有名です。

www.microsoft.com

www.youtube.com

MyLifeBitsでは、メール、閲覧したWebサイト、紙書類のスキャンデータ、画像、音声データ、本、音楽CDを対象として、それらを記録し、PCを使う際に起こり得るすべての電子的な動作を後からトレース可能にすることを目指したものでした。(過去形でいいのだろうか…その後どうなったのかまではは分かりませんでした)

また、視覚情報の記録には「Aided eye」があります。

lab.rekimoto.org

vimeo.com

見たものをそのまま記録するだけでなく、眼球の動きを捉えて「誰とアイコンタクトを取ったか」「何に興味を持ったか」といった情報にまで及ぶ記録を行うものです。

この分野も非常に興味深いのですが、眼球の動きを捉えるということはつまり「メガネ型デバイス」にならざるをえないため、一般普及には利用者の心理的ハードルが一番の課題です。(Google glassさんお元気ですか)

メガネ型デバイスについては、ライフログというよりもVR/AR方面で今後より進化していくと思われます。

現代のライフログ

さてようやく現代です。

Forget-me-not や MyLifeBits Project などを経てMemex構想から約70年、ブッシュが思い描いていた「記憶拡張機」はこのような進化を遂げました。

www.youtube.com

vimeo.com

どうですか。

その他色々あるかとは思いますが、MemexやForget-me-not等の歴史を振り返った後にこの動画を見ると、ちょっとした感動すらあります。

一般利用では、まだ見た物すべてを記録するといった段階には来ていないですが、場所情報についてはほぼ100%記録できる時代になりました。

そして、ただ記録するだけでなく、行動履歴から必要な情報を「検索することなく先回りして」提供してくれる時代になりました。

www.google.com

さいごに

この内容は、放送大学の「コンピュータと人間の接点」の講義をベースに、自分なりに調べた情報をまとめました。

Google Glassや、Apple Watch 等、ウェアラブルバイスについてはまだまだ発展途上な印象ですが、「第2のジョブス的なカリスマが、誰もがあっと驚くスゴイものを作ってくれるといいな〜と思います」みたいな小学生レベルの感想で終わります。